(よかった。本当に)
でも戦闘服がぼろぼろだったから、きっと死にかけたに違いないけど。
ブルマは機内で舵を握っていないほうの手を見つめた。手にまだベジータの体温の温かさが残っているような気がした。ブルマはその手を自分の頬に当てた。
知らぬ間に涙がこぼれた。
(生きててよかった)
もしかしたら大きくなったトランクスがいる未来世界のようにベジータが殺されたかもしれなかった。
(3年前トランクスが来て、みんなに人造人間のことを知らせなければどうなっていたんだろう。そして今回トランクスが来なければ……。そう、そうなのね)
ブルマはふと未来の自分の意図に気がついた。
(あんたが、あんたがトランクスを送ってくれたのね。ベジータを失う悲しみを私に負わせないためにトランクスを送ってくれたのね。ありがとう……。でもあんたはどうなのかしら。未来の私は?元気にやってるかしら。どうか、幸せでありますように。ベジータがいない世界でも幸せを見つけられるように)
ブルマは窓から見える青い空を見ながら未来の自分の幸せを祈った。
「ブルマさん、ブルマさん」
部屋のスピーカーから自分を呼ぶ声が聞こえた。ブルマはぼんやりとベッドの上で目を覚ました。
頬に涙の跡があった。
(ひさびさに昔の夢を見たわ)
トランクスが過去に行ってからベジータのことを思いだすことが多くなっていた。
「ブルマさん!俺、先に行っちゃいますよ」
スピーカーから焦った男の声が聞こえる。
(そうだ。今日は約束してたんだわ)
「ごめーん。あと5分、時間ちょうだい。仕度するから」
「わかりました。5分だけですよ〜」
そう言って男は回線を切った。ブルマはベッドから立ち上がると背伸びをした。
寝巻用のシャツを一枚だけ羽織ったその姿はとても50歳間近とは思えないプロポーションだった。
「さてと、ひさびさに気合いれて、おしゃれでもしようかしら」
今日はいつも小うるさいトランクスがいないということで仲間たちと地下シェルターのバーで飲む約束をしていた。相変わらず飲むと絡むブルマの酒癖のせいで、トランクスはブルマがバーに行くことを嫌っていた。
「本当、あの堅物なところはベジータそっくりよね」
ブルマは髪の毛を解き、真っ赤な口紅を唇に塗る。
「年取っても私っていい女よね」
ブルマは鏡の中の自分に満足気に微笑んだ。
(ベジータがいなくても私はなんとか生きてられるわ)
部屋を出ると待っていた男が驚いた顔でブルマを見た。ブルマはその男に艶美な笑みを向ける。
「さあ、行きましょ」
そう言うとブルマはその男の小型カーに乗った。
(大丈夫。私は私なりに楽しくやってるわ。だから安心しなさい、ブルマ)
ブルマは地下通路の薄暗い光の中で過去の自分にそう語りかけた。
(完)