数分後、けたたましい音がして宇宙船が空に向かって飛び立った。
ブルマは真っ暗な部屋の中でその音だけを聞いていた。
「おや、母さん」
宇宙船が無事に飛び立つのをブルマの母と見送った後、ブリーフ博士は思い出したようにつぶやいた。
「なんですの?あなた?」
ブルマの母が先ほどまで涙をぬぐっていたレースのハンカチを手にブリーフ博士を見る。
「うっかりしておった。燃料を足すのを忘れていたぞ」
ブリーフ博士は残念そうにそう言った。しかしその顔にはいたずらをした子供のような表情が浮かんでいた。
「そうなの?ベジータちゃん。怒って帰ってきちゃうわね。困ったわ〜」
ブルマの母も少しも困った様子ではなく、そう答えた。その声には嬉しそうな響きも感じられる。
「また歓迎会しましょうね」
ブルマの母はそう言って、楽しそうに建物の中に入っていった。
ウーロンが夫妻の言葉を木の陰から盗み聞き、がっかりと肩を落とした。
「あいつ、また帰ってくるのか……」
1週間後、ブルマはいつもの通り研究室で父の手伝いをしていた。
来週カプセルコーポレーションから売り出す予定の新作エアカーの最終調整を
しているのだ。
「ブルマ、今日あたりベジータくん、帰ってくるかもしれないな」
ブリーフ博士は飼い猫の背中を撫でながらそう言った。
あの日、ブリーフ博士から燃料の話を聞いてから、ブルマは毎日ベジータの帰りを待っていた。
「でも、あのベジータが素直に帰ってくるかしら」
「なあに、心配ない。燃料が切れるころになると自動的にこっちに戻るように
プログラムしてあるから」
ブリーフ博士はブルマの肩に手を置いて言った。
ブリーフ博士は最初からブルマの気持ちに気づいていた。無論、ブルマの母もである。
娘には好きな人と一緒になってもらいたいと思っているので影ながら応援していたのだ。
(ベジータの奴、帰ってきてもすんごく怒ってるに違いないわ。キスしてくれたのも最後だからと言ってたし)
ブルマは1週間前にベジータされたキスを思い出し、顔を赤らめた。
「おお、帰ってきたぞ」
ブリーフ博士の声に、ブルマははっと我に返った。
そして手に持っていた設計図を放り出すと、落下地点に向かって走りだす。
(関係ないわ。ベジータがどう思おうと。私は彼が好きだもの)
宇宙船のドアが開く。
不機嫌だが、それだけではない表情のベジータが中から出てくる。
「おい、ブルマ。貴様の親父はっ」
ベジータはブルマの姿を見ると怒声を浴びせたが、最後まで言葉を続けられなかった。
その胸にブルマが飛び込んだからだ。
「き、貴様。離せ。俺は燃料補給したら出て行くからな」
ベジータは少し顔を赤らめて、ブルマを自分から引き離した。
「嫌よ。しばらくは行かせないから。ほらほら、お腹へってるでしょ。宇宙ではろくなもの食べてなかったでしょ」
ブルマはベジータの手を掴むとキッチンを連れて行こうとした。
「俺の手を掴むな」
ベジータはブルマの手を振り払いそう言った。
「だが、腹はへっている。食事を用意しろ。あと新しい戦闘服が必要だ」
ベジータはいつもの傲慢な態度でそれだけ言うと自分でキッチンに歩いていった。
「もう、素直じゃないんだから」
ブルマは嬉しそうに微笑んでベジータを追った。
「でもその前にシャワー浴びてよね」
(きっとこれが人生最後の恋。きっと一生叶わない永遠の片思い。でもそれでもいいの。私、今とっても幸せだから)
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