2011年04月22日

ムカシノオトコ3

「ヤムチャさん、遅いですよ」
 飛行機の中で待っていたクリリンはやっと機内に入ってきたヤムチャに不服そうな顔を見せた。機内には亀仙人、チチ、プーアル、ウーロン、チチがすでに座って待っていた。
「クリリンよ。大人の事情とやらがあるんじゃよ。まあ、わかってやるのじゃ」
 亀仙人はヤムチャに目配せをしながら、クリリンをそうたしなめた。その横のウーロンはうんうんと意味深な表情をしてうなずいている。ヤムチャは引きつった笑いを亀仙人に返した後、操縦席に座った。
「さあ、戻りましょう」
 そして操縦桿を握ると飛行機を上空に浮かせた。

「武天老師様、大人の事情ってなんすか?だってブルマさんは‥…」
「クリリン、お前もまだまだじゃな。色々あるんじゃよ。なあ、ヤムチャよ」
「はあ‥…」
 亀仙人の言葉にため息交じりにそう返しながら、ヤムチャは目の前に広がる青い空を見つめた。眼下のカプセルコーポレーションは機体の高度が上がるにつれ、小さくなっていく。ブルマがいるはずの研究室にブリーフ博士が入っていくのが見えた。
 後部座席では亀仙人がクリリンはなにやら恋愛講義なるものを話し始めたのが聞こえた。ヤムチャはそれをBGMに聞き流しながら、三年前を思い出していた。
(ブルマと二人っきりになるべきじゃなかったな。心の奥に閉じ込めたはずの自分の思いを再び開ける事になってしまった。ブルマの思いはわかっていた。あの時には戻れない)
 ヤムチャは切なげに小さくなったカプセルコーポレーションを見つめた。そしてそんな思いを振り切るように、首を左右に振ると飛行機の軌道を修正し、カメハウスに向けて発進させた。
 飛行機はヤムチャの思いを切り裂くように青い空を突っ切ると、まっすぐカメハウスに向けて飛んだ。

「おお、ブルマや」
 翌日、研究室にトランクスを連れて現れたブルマにブリーフ博士は声をかけた。16号は機能を一旦停止され、静かに寝台に寝かされている。
「なあに?父さん」
 ブルマは揺りかごにトランクスを入れ、音のなる玩具を与えるとブリーフ博士を見つめた。
「ベジータくんの戦闘服の複製、数着また完成したらしいぞ。後で会社の者が届けてくれるらしい」
「そう、早いわね」
 ブルマはブリーフ博士にそう答えながら、机に座り、パソコンの電源を入れた。
 昨日、ベジータ達を見送ってから、必要になるに違いないと会社の者に戦闘服の複製を頼んでおいたのだ。前回は数日かかったので今回も数日かかると思っていたが、予想以上に会社の技術者は早く完成させたようだった。
「さて、私も早く16号の修理を終わらせるわ。父さん、そのコード、16号の頭に差し込んで」
「ああ、わかった」
 娘に言われ、ブリーフ博士は天井からつり下がっているコードを掴むと16号の頭部に差しこんだ。


「じゃ、俺ちょっと悟空のところ行ってきます」
 クリリンは勢いよくそう言うと、カメハウスから飛び立った。そしてその姿はあっという間に小さくなり、青い空に溶け込む。
 カメハウスの外ではオレンジ色の道着を着たヤムチャが突きや蹴りを繰り返していた。
「ヤムチャ様、大丈夫ですか?」
 いつもと違う雰囲気のヤムチャにプーアルがおそるおそるそう話しかけた。ヤムチャはプーアルの問いに、にこりともせず、ただ熱心に稽古に励んでいた。額から汗が流れ落ち、顔をつたって道着の襟部分を濡らす。オレンジ色の道着はヤムチャの発する汗でぐっしょり濡れていた。
「やめとけよ。プーアル。ヤムチャは今恋に悩んでいるんだからさ」
 オレンジジュースをじゅるじゅるとストローで飲みながら、ウーロンはプーアルにそう忠告する。
「こ、恋ですか?」
「そうそう、ブルマに会って再燃したんじゃないか?だってヤムチャの様子がおかしいのは昨日からだろ?」
「‥…そんな」
 ブルマの夫、正確にいうと夫ではないらしいが、ブルマの思い人はヤムチャが逆立ちしたって敵わないベジータである。人造人間が現れてから、プーアルはヤムチャがすっかりブルマへの思いをたち切ったと思っていた。
 しかしそうではなかったらしい。
 ヤムチャはオレンジ色の道着を汗で濡らして、必死に稽古に勤しんでいた。
「やっぱり決めた」
 不安そうにしているプーアルの前で、ふいにヤムチャはそう言って汗を拭った。その表情は迷いがなく、すっきりとした様子だった。
「ちょっとブルマのところへ行ってくる」
 道着の上着を脱ぎ、汗を拭きとるとヤムチャは出かける支度をするため、家の中に入っていった。その様子をプーアルは心配そうに、ウーロンはおもしろそうに見ていた。
 上空には今日も青い空が広がっている。
 家の裏の大きなパラソルの下では、亀仙人がよだれを垂らしながらデッキチェアで幸せそうに熟睡していた。





posted by ありま at 00:00| DB 2次小説 セルゲーム前 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月21日

ムカシノオトコ2

「父さん!何もそんなに急がなくても。悟空さんたちが出てくるまでにまだ時間があるのに……」
 神殿に向かって飛びながら、トランクスは隣のべジータにそう話しかけた。しかしべジータはいつものように眉間に皺を寄せたまま、何も言わない。
(何を聞いても答えそうもないな)
 トランクスはため息をつくとべジータと同じように正面を向いた。
 悟空たちが出てくるまであと数時間はかかるはずだった。

(あのクズ野郎……)
 べジータは空をトランクスと共に飛びながら歯切りをした。
 トランクスはそんな父の様子に気がつきながらも何も言わず、ただ正面を見て飛んでいた。父が不機嫌な理由が完全体のセルにコテンパンにやられ、プライドを深く傷つけられたせいだと思っていたからだった。
 しかしべジータはまったく違う理由で苛立っていた。
(あの男、あのクズの地球人め……)
 べジータはヤムチャを見るだけでいらいらしていた。ヤムチャが親しげにブルマと接し、トランクスとも仲良くしているのを見ると無性に腹が立った。
(クズのくせに……)
 べジータはそんな馬鹿らしいことで苛立ちを覚える自分に嫌気がさしていた。だから早くカプセルコーポレーションを出て、精神と時の部屋で修行をしたかった。
ーーヤムチャ…
 ブルマがヤムチャを呼ぶ声が頭に響く。
(畜生!)

「と、父さん!?」
 べジータは拳を握り締めるとふいに超サイヤ人に変身し、飛ぶスピードを上げた。そして、その姿はあっという間にトランクスの視界から消える。トランクスはべジータに追いつくため、慌てて同様に変身するとその後を追った。


「あ?帰るの?」
「ああ」
 べジータ達が神殿に向かってからすぐ、亀仙人、チチ、クリリン、ヤムチャたちはカメハウスに戻ることにした。ヤムチャは16号を修理するため、研究室に篭り始めたブルマにカメハウスに戻ることを伝えにきていた。
 ブルマは机に座ったままこちらを見上げていた。相変わらず大きな美しい瞳が宝石のようだとヤムチャは見とれずにいられなかった。
「孫くんもカメハウスに来るはずだから、よろしく伝えて置いてよね」
 ブルマは自分をじっと見つめるヤムチャに臆することもなく、その黒い瞳を見つめ返してそう言った。
「わかってるよ」
 ヤムチャはブルマに笑顔を向けてそう答えた。

 その優しい笑顔は3年前と変わらなかった。
 恋人同士だった3年前……ブルマはヤムチャが大好きだった。結婚まで考えたこともあった。しかし、今となってはその思いは思い出でしかなく、ヤムチャの黒い瞳をみても、何も感じなかった。

「なあ。ブルマ」
 ブルマが昔の思いに気を取られているとヤムチャがそう呼びかけた。気がつくと、いつの間にかすぐ近くにヤムチャの顔があった。
「ヤムチャ」
 ブルマは苦笑するとヤムチャの胸を押しのけた。
「私はもうべジータの妻なのよ。そういう冗談はやめてよね」
 ヤムチャはブルマの言葉に同様に苦笑した。青い物憂げな瞳を見ていたら、思わず胸が騒ぐのがわかった。瞳に囚われ、つややかな唇にくちづけたいと思った自分がいた。
 ヤムチャは自分の変わらぬ思いにため息をつきながらも笑顔を作った。そしてブルマを見つめた。3年前までベッドを共にした美しい女。そのかぐわしい香り、柔らかな感触は今でも思い出せた。

「ヤムチャ?」
 ブルマはふいに自分を見つめ、無言になったヤムチャを訝しがった。ヤムチャはブルマの視線を感じ自虐的な笑みを浮かべた。
「悪い。邪魔したな。もう行かないと。武天老師様達が待ってる。今度会うときはセルゲームの後だな」
 ヤムチャは笑みをさわやかなものに変え、わざと明るい声でそう言うと研究室を出て行った。
posted by ありま at 07:18| DB 2次小説 セルゲーム前 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2011年04月20日

ムカシノオトコ1

部屋の中でチャキチャキと髪を切る音が響く。
「髪の毛は私に似てよかったわねぇ。さらさらだわ」
ブルマはそう言いながら鏡越しにトランクスの青い目を見つめた。トランクスはブルマの大きな瞳に見つめられ、少し照れたように赤くなって俯く。
「トランクス、ちょっと下向かないで」
「す、すみません」
 トランクスはそう言うと慌てて顔を上げた。
「トランクス。私はお母さんなんだから。敬語なんてつかわなくてもいいのに」
 ブルマは苦笑しながらトランクスの前髪をざくっと切る。するとトランクスの切れ長の目あらわになってブルマはどきりとするのがわかった。
 色はブルマに似て青い瞳だが、目つきは父親のべジータのものであった。
「母さん?」
「あ、ごめん、ごめん。ぼーとしてたわ。髪型は前と同じにするわね」
 ブルマはそう言うとハサミを持ち直し再び、髪を切り始めた。


 ヤムチャがキッチンから皆のいるリビングルームへ戻るために廊下を歩いていると、嫌な男の影が見えた。近づくと
やはりそれはヤムチャの嫌いな男で、ダークブルーのアンダーにプロテクターを装備して壁に寄りかかっていた。その鋭い目を閉じられていたが、眉間には皺が寄り、体全身から不機嫌そうなオーラーが漂っていた。
 べジータのすぐ側にはスライドドアがあり、その中ではブルマがトランクスの髪を切っているはずだった。
(待ってるのか…?)
 ヤムチャは苛立ちながらも素直にトランクスの散髪が終わるのを待っているべジータを、不思議な気持ちで見つめた。
(以前の奴ならさっさと一人で神殿に行ったはずだ。やはり父親として何かしら感じているのか?)
「なんだ?」
 ヤムチャの視線に気付いてべジータが目を開いた。眼光はいつもながら鋭く、待たされていることでさらに鋭さが増していた。
(そんなにイライラするなら先に行けばいいのに…)
 ヤムチャは内心で苦笑しながらも、別の言葉を口から出した。
「もう一度修行したら、勝算はあるのか?」
 べジータはヤムチャの問いに馬鹿にしたような笑みを浮かべ、鼻を鳴らす。
「ふん、当たり前だ。俺を誰だと思っている。俺は戦闘民族サイヤ人の王子、べジータ様だ。お前らクズらと一緒にするな」
「クズ…。何度もそう言いやがって。そういうお前も完全体の前ではクズ同様だったらしいじゃないか」
「なんだと。言わせておけば!」
 べジータは額に血管を浮かせて拳を握りしめる。少し力を出すだけでヤムチャなど数秒で殺すことが出来た。
「父さん!」
 スライドドアを開けて、焦った様子のトランクスが出てきた。少し高まったべジータの気配に嫌な予感を覚え、出てきたようだった。
「ふん。命拾いしたな」
 べジータは腕を組み、鼻を鳴らすと、ヤムチャに再び馬鹿にしたような笑みを向けた。
「くそっ!」
「ヤムチャさん!父さん!」
 馬鹿にされ怒ったヤムチャがべジータに殴りかかろうと拳を上げた。トランクスはそれを慌てて止める。
「なあに?なに騒いでるの?」
 騒ぎを聞きつけ、部屋からブルマが顔を出した。トランクスの切った髪を掃除していたらしい。その手には掃除機が握られていた。
「トランクス。行くぞ」
 べジータは部屋から顔を出したブルマを一瞥すると、くるり背を向け、エレベータに向かって歩き始めた。
「え、あ?父さん?!」
 トランクスはヤムチャを抑えていた手を離すと、慌ててべジータの後を追った。
「ちょっと。べジータ!待ちなさいよ。まだろくに話もしてないでしょ?!」
 ブルマはべジータの背中に向かってそう叫んだが、その声にべジータが振り返ることはなかった。代わりにトランクスが引きつった笑みをこちらに向けて手を振った。
 ブルマはため息をつくと、トランクスに手を振りかえす。
「まったく、せっかちなんだから。もう少し話をする時間をくれてもいいのに。ねぇ。そう思わない?」
「ん、ああ」
 ヤムチャはそう自分に向かって口を尖らしたブルマに、曖昧な笑顔を向けた。




にほんブログ村 アニメブログへ
にほんブログ村
posted by ありま at 13:39| DB 2次小説 セルゲーム前 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。