2014年03月13日

魔師弟『制約1』

(界王神様……)

 ピッコロは中庭で大柄の長髪の男――キビトと話す少年に視線を向ける。
『一応黙って置いてください。今はまだ誰にも知られたくありませんから』
 少年の姿の界王神は悠然と微笑み、そう口止した。ピッコロは圧迫感から逃げるように背を向け壁に寄り掛かる。そして目を閉じた。
 界王神など噂だと思われるくらいに、遠い存在だった。界王ですら会ったことがない、大界王の神。それが界王神だ。そんな存在がこの小さな星・地球に訪れたことはとてつもなく奇妙で、嫌な予感がピッコロの胸に広がる。

(これから何かがあるのか?何のためにあの方は地球に来たのだ?)

「おい、悟飯。落ち着け。でーじょうぶだ。死にはしねーさ」
 ふいに悟空の諌める声が耳に飛び込んできた。そしてピッコロは弟子の気がどんどん上がっていっていることに気がつく。
 目を向けると、悟飯は会場を見て怒りを増幅させているようだった。
 会場では、ビーデルとスポポビッチが戦ってる。いや、それは既に戦いではなく、一方的な暴力と化していた。負ったダメージが重すぎ動けない娘の顔を、異常な様子の男が踏みつぶそうとしている。
 大きな瞳の勝気な女性。地球人の感覚はわからないが、クリリンが可愛いと言っていたのをピッコロは覚えていた。
 その顔は度重なる暴力で腫れあがり、痛々しい。

(悟飯が怒るのも無理はない)

 ちりっと胸に痛みが走るが、彼の怒りは納得できた。が、ここで超サイヤ人になるのは彼の本位ではないはずだ。男が娘を殺すとは思えなかった。

(悟飯。気を押えろ。死にはしないはずだ)

 ピッコロは弟子の心に呼びかける。

(ピッコロさん。僕は、僕は我慢ができません。ビーデルさんが!)

 怒りの思念が流れ込んだかと思うと、悟飯は超サイヤ人になっていた。

「てめぇ。もうゆるさんぞ。あのくそ野郎」

(悟飯!)

 その様子はセル戦を思い出させる。ピッコロは止めに走ろうと体を起こした。

「凄いエネルギーです。これは利用できそうですよ。キビト」
 が、界王神の言葉が耳に飛び込んできて、意識をそらされる。
 ピッコロが戸惑っている間に、悟飯は会場に飛び出していた。しかし彼は暴走した弟子の後を追えなかった。
『利用』と言う言葉が、気にかかり、動けずにいたのだ。
 そんなピッコロに、いつの間に控室に戻ってきてたのか、界王神が悠然と微笑みかける。
『あなたにも是非協力してもらいたい』
 心の中に入り込んだその言葉は、呪文のように元神であったピッコロの心を束縛する。脳裏では弟子の事が気にかかっていた。しかし、地球の神であった彼は動けなかった。

 界王神はそれからピッコロに語りかけることはなかった。中庭にキビトと共に再び足を向ける。
 圧迫感が和らぎ、気を探ると弟子の気が収まっていた。超化を解いたことがわかり、安堵する。しかし、悟空の気が不意に消え、ピッコロは入り口に視線を向ける。ビーデルを抱いた悟飯が入ってくるのが見え、クリリンが仙豆を取りに悟空がカリン塔に瞬間移動したことを伝えていた。 

「仙豆?そうか、よかった!」
 悟飯は安堵して微笑むと足早にその場を立ち去る。
 腕の中のビーデルはぐったりとしていた。悟飯が顔色を変えるのも無理はない。ピッコロはそう理解するが、釈然としない思いは残る。

 しかし、今はそんなことを思っている場合ではないと思考を切り替えようとした。
 今大事なのは、界王神のことだ。悟飯を利用して何かをしようとしている。師匠として愛弟子に守りたい、その気持ちがあるのは確かだった。が、神であったピッコロが、界王神の意向に逆らうことができないことも事実であった。


「クリリンさん、お父さんは戻ってきましたか?」
「まだだ」
 息を切らせて戻って来た悟飯にクリリンがそう答えるのが聞こえた。弟子は溜息をつくと空を見上げる。
 天下一武道会の前チャンピオン、そして格闘技世界チャンピオンのミスターサタンの娘であるビーデルの容体がまだわからないということで、試合のほうはまだ始まっていない。
 悟空が行ってからまだ10分ほどしか経過していない。それでも悟飯は苛立ちを隠せない様子で、部屋の中をいったりきたりしている。
 弟子から放たれる苛立ちの気持ち、それがあの娘に起因していることもあり、ピッコロは逃げるように違う場所に移動し、窓から外に視線を向けた。

「ピッコロさん!」
 ふいに弟子の声がした。
「?!」
 すぐ傍に悟飯が来ていた。気づかぬ自分の愚かさを笑いたくなった。が、弟子はそんな師匠に様子に気がつかないようで、熱心に身を乗り出して窓の外を見ている。
「お父さん、いないですよね?」
 どうやら瞬間移動で消えた父親を探しているらしい。こんな場所に戻ってくるはずがないのだが、焦っている悟飯は闇雲に探しているようだった。
 ビーデルという娘がそれ程の存在かと、ピッコロの胸に焼けるような痛みが走る。が、痛みを堪えて口を開いた。
「……孫なら、お前かクリリンの側にもどってくるはずだ」
「そうですよね」
 弟子は苦笑する。
「あの娘、それほど重傷なのか?」
「はい。でも命には別条はないみたいです。だけど、仙豆を飲んだほうが治りが早いので」
「そうか」
 弟子のビーデルへの労りの気持ちが伝わる。何とも表現しがたい感情に支配さて、ピッコロは居た堪れなくなった。
「ピッコロさん。ピッコロさんは大丈夫ですか?」
「ん?」
 予期せぬ質問にピッコロは驚く。が、自分の事を気にかけていたのかと思うと嬉しい気持ちが先立つ。
「あのシンって人に何か言われたんですか?」
 悟飯はそんなピッコロの傍らに立ち、見上げる。
「……何も。どうしてそう思う?」
「何も言われてないならいいです。ピッコロさん、元気ないなと思って。シンって人との試合を棄権するのもピッコロさんらしくないですし。すみません。僕、なんか全然気がつかなくて」
 そう言って悟飯はじっとピッコロを見つめる。サングラスごしで表情をわからない。しかし、気持ちはまっすぐピッコロを向いていた。
「ビーデルさん。女の子だし。僕たちと違って強くないから。結局、こんなことになっちゃったし。ビーデルさんが回復したら、ピッコロさん……。僕にシンって人のこと話してくださいね。だってピッコロさんは何か僕に隠してるでしょ?」
 ピッコロは弟子の質問に顔色が変わっていないことを願う。
「……隠してなどいない。それより、クリリンのところへ戻ったらどうだ。孫が戻ってきてるかもしれないぞ」
 これ以上質問されるとぼろが出るかもしれない。 ピッコロはわざと急かすように言った。
「そうですね!じゃ」
 律義な弟子はぺこりを頭を下げると、走って行く。
 ピッコロは目を細めて、小さくなる悟飯の背中を見つめた。

 悟飯はピッコロの様子を見ていないようで、見ていた。しかも、ピッコロが隠し事をしてることすら見抜いたようだった。だが、今はまだ、シンーー界王神のことを話すわけにはいかない。

「悟飯……」

 弟子の名を呼ぶ。
 聡明で、誰よりも愛しい弟子。彼を利用させることなど、考えたくなかった。しかし、協力せざる得ない自分の立場を思い、ピッコロは目を閉じる。

 純粋な魔族であった時、ピッコロの行動は全て彼の意向によるものだった。小さかった悟飯を守って来たのも、彼が望んだからだ。
 しかし、今のピッコロは自分の意向だけで動くことはできなかった。
 元神様――その立場がピッコロの行動を制限していた。


posted by ありま at 10:37| Comment(0) | 魔師弟セル編直後ーブウ編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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