2014年03月07日

魔師弟話『神様の憂鬱』

「神様。ピッコロ、悟飯。頑張ってる」
 神殿の縁に立ち、下界を見下ろしていたデンデに、ミスターポポがそう話しかけた。
「ええ、まあ」
 小さな神様は額に汗をかき、微妙に笑ってそう答える。

 彼の心中は穏やかじゃなかった。

 心に浮かぶのは、同胞ピッコロへのエール。そして友人悟飯への憤りだった。
 神様であるデンデ、移動しなくても心に呼びかければそれを伝えることは簡単だ。しかし、それらを実行するとピッコロに怒鳴られることは明白で、彼はなすすべもなく状況を見守るしかなかった。

(悟飯さん。なんで気がつかないのかな)

 デンデは大きな溜息をつく。
 
 1週間前、彼が怪我をして運ばれて来た時、二人は完全に和解。いや、元から喧嘩したわけではなかったが、気持ちが完全に通じ合ったと思っていた。
 しかし天下一武道会が始まり、あの女性――ビーデルが現れてから状況は元に戻ったようだった。

(ピッコロさん……)

 デンデは、腕を組み苛立ちを隠しつつ二人を見守る同胞を眺めた。
 二人――悟飯とビーデルは仲良く並んで、少年部の決勝戦を見ている。戦うのはトランクスと悟天だ。
 子供とは思えぬ激しい戦い。観客は完全に驚愕の目で、悟空達は自分たちの子供が予想よりも強いことに少し興奮ぎみになっているようだった。
 
 小さな神様は自分の誘惑に勝てず、ビーデルの心を覗く。彼女の心にあるのは、悟天やトランクスの強さへの驚きが大半だった。が、心の隅にあったのは悟飯への興味。それは単なる興味ではなかった。

 恋愛などナメック星人にはわからない。
 だが、神様である彼は毎日下界の様子を伺っている。しかも、ミスターポポに頼んで本を取り寄せ、恋愛というものがどういうものか知識としてはわかったつもりだった。
 同胞が友人に頂く感情は、師としての感情以外のものがあるようにデンデには思えた。ビーデルが悟飯の周りに現れるようになり、ピッコロが苛立ち始めたのが、その証拠だ。しかし『嫉妬』と指摘すると、同胞が怒ってしまいしばらく神殿に戻ってこなかった。
 対する悟飯。弟子として師を尊敬し、その忠義心には目を見張るものがある。しかし、これもまた純粋な弟子としての思い以外なものがあるように思えた。
 この世に生まれ落ちて、体だけは急激に成長させたが、心がその成長に伴わなかった当時のピッコロ。そんな時に、純粋な存在――悟飯と過ごすことになり、大魔王の分身であり息子の彼はかなり影響を受けた。それは悟飯も同じく、4歳という人間で言うならば親の庇護の元生活する時期に、親から離され、ピッコロに訓練を受けた。
 お互いが影響し合い、今の彼らがある。
 恋愛――という男女の間の発生する感情が二人に芽生えてもおかしくないはずだった。

 デンデはビーデルと楽しげに話をする悟飯を見つめる。
 悟飯にとってピッコロが一番であることは変わらない。同胞もそれを知っている。しかし、こうして目の前で自分を無視して仲良くされるといい気分ではないだろう。

(悟飯さん……)

 友人のことは大好きで、今まで彼に苛立ったことはない。が、今回ばかりはデンデは少し彼に対して怒りを覚えた。
 悟飯が同じくナメック星人であれば、このような苛立ちは起きるはずがない。常に互いの心が通い合うからだ。ピッコロの気持ちが悟飯に届き、悟飯は彼の過ちに気がつくだろう。
 しかし、友人はナメック星人ではない。彼はピッコロの苛立ち、悲しみを知らないまま、仲良くビーデルと話をしている。

(……ピッコロさん)

 神様である自分は中立でなければならない。ビーデルの気持ちを知ってしまったデンデは、彼女の邪魔をするようなことはできなかった。
 心は既に結ばれているピッコロと悟飯。
関係が壊れることはあり得なかった。
だが、小さな神様は、同朋の心に自分の心を重ね、大きな溜息をつくしかなかった。


posted by ありま at 11:39| Comment(0) | 魔師弟セル編直後ーブウ編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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