2014年03月04日

魔師弟話『不機嫌な師匠』

 お父さん、お父さんがここにいる。

 僕は興奮ぎみに、お父さんとクリリンさんの後ろを歩いていた。
 天下一武道会の選手控え室に向かう、お父さん達。
 お父さんの帰りを僕だけじゃなくて、みんなが喜んでた。

 普段の僕なら絶対に参加するはずがない格闘技の大会。
 僕がグレートサイヤマンなことをばらさない条件として、ビーデルさんが提示しした
ことーーそれが天下一武道会に出場することだった。
 僕が参加するってことでベジータさんが出場を決めたら、お父さんも1日だけ戻れる日をその日に決めたみたいだ。
 最初は気が進まなかったけど、こうしてお父さんが出場するために1日だけでも帰ってくれることになり、少しだけビーデルさんに感謝してる。

 ビーデルさん。
 お母さんはお金持ちのビーデルさんと僕を結婚させたがってる。でも、僕は正直結婚というものがわからない。
 一緒に住む?子供?
 ……子供のことは想像したくない。
 あんなことをするなんて。


 僕はぶんぶんと首を横に振る。
 どうせ一緒に住むなら、ピッコロさんと住みたい。
 ピッコロさんとなら、一生幸せに暮らせそうだ。
 子供は……、いや、ピッコロさんは男だし、いや男じゃない。
 うーん。
 馬鹿なことを考えるのはやめよう。
 ピッコロさん、ごめんなさい。

 どっちにしても、僕は神殿で暮らせない。
 神殿に住んだらお母さんが悲しむだろうし。
 お父さんは帰ってくるけど明日にはまたあの世に戻ってしまう。
 だから僕が、お母さんの傍から離れるわけにはいかないんだ。

 お父さん……。
 お母さんがどんなにあなたのことを想っているか知ってますか?
 きっと知らないんだろうな。

 僕はクリリンさんと無邪気に話すお父さんを見つめる。
 お父さんが強くなくて、地球のためになんて戦わなければ、どうなっていたんだろう。
 お母さんはその方が幸せだったのかな。
 
 わからない。
 お父さんは強くて、凄くて、世界を、地球を何度も救った。
 そんな例えは考えられない。

「悟飯くんでしょ?」
 ふいに声が飛び込んできた。
 僕は考え事から中断させられて、振り向く。
「ビーデルさん」
 そこにいたのはビーデルさんだった。腰に手を当てて今日もなんか怒ってる感じだ。
「やっぱり。悟飯くん。何でそんな格好してるの?」
「!」
 そんな格好って。悟飯くんって!
 今はグレートサイヤマンなのに! 
「しー!」
 僕はまずビーデルさんに口止めして、周りを見渡す。誰も僕達のことを見てないのを確認してほっとした。
「なんで?」
 僕の仕草に彼女は眉を顰め、不満そうだ。
「ちょっと、ビーデルさん。こっちにきて」
 僕は壁際の誰もいない所に移動すると、手招きして彼女を呼んだ。
 お父さんとクリリンさんは話に夢中になっていて、僕が離れたことに気が付いてないみたい。まあ。いいや、後から追っかけよう。
 ビーデルさんはあのミスターサタンの娘。お父さんやクリリンさんが変なこと言うかもしれないし。

「何?何なの?こんなところに呼んで」
 彼女は口を尖らして、目を吊り上げてる。
 お母さんが怒ったときよりはましだけど、やっぱりちょっと怖いな。ビーデルさん……。
「僕はグレートサイヤマンだよ」
 『だから、僕が孫悟飯ってこと言っちゃだめなの』後半の部分は口に出さずに、彼女に説明する。
「あ、そういうことか」
 すると彼女は表情を和らげた。そして、舞空術を教えていた時のように笑う。僕はその様子にほっとした。
「で、ビーデルさん。ばっちり飛べるようになった?」
 あの時、すでにかなりいい線をいっていた。彼女が努力家なのは、教えていてわかっている。だからきっと彼女が自分自身で練習していることは、簡単に想像できた。
 予想通りビーデルさんはVサインをした後、「もちろんよ。ほら」と浮かび上がる。そして飛び始めた。
 人気のないところを選んでよかったと思う。ビーデルさんが飛んだところを見ている人は誰もいないようだった。
 僕は空を見上げると、彼女を追い掛ける。ビーデルさんを見つけ横に並ぶと、ちょっと怒ったような顔をして、スピードを出した。

 本当、負けず嫌いだな。ビーデルさん。

 僕は苦笑しながら彼女を追った。



「じゃ、予選会場でね。私、お父さんの控え室に行くから」
 ビーデルさんは予選会場前まで来たら、そう言って走っていった。正直僕は一人になってほっとした。
 一緒に飛び回って、降りたと思ったら、クラスメートのシャープナーくんがいた。なんか勝手に怒っていて、ビーデルさんも突然僕の腕を掴んだりして、わけがわからなかった。

 シャープナーくんはきっとビーデルさんが好きなのかな。
 だから、僕が側にいると怒ったのかな。

 勘違いなのになあ。
 いや、勘違いじゃないのか。このまま行ったらお母さんが強引に結婚させることもありえる話で。
 うーん。
 気が進まない。
 ビーデルさんが嫌いなわけじゃない。
 でも一生の相手として考えるなら、僕はやっぱりピッコロさんがいい。
 無理な話だろうけど……。


「放っておけ、元からこういう顔色だ!」
 会場を歩いているとピッコロさんの怒鳴り声が聞こえた。顔を向けると、オレンジ色の着物っていう服だったかな?それを着たスタッフの人が一目散に逃げる様子が見えた。
 不機嫌そうな僕の師匠は、腕を組んで壁に寄りかかっている。
「ピッコロさん!」
 僕が声をかけると視線を向けた。
 うん。不機嫌だ。なんでだろう?
 あの人たちのせいかな?
「ピッコロさん、どうかしたんですか?さっきの人たち何かしました?」
「何もせん。ただ俺の顔色が悪いが、大丈夫かと聞いてきただけだ」
 僕は思わすぷっと吹き出す。
「笑うな」
「……ピッコロさん、下界の人にいつも言われてますよね。その台詞」
「ふん」
 僕があまりに笑ったせいか、ピッコロさんは不愉快そうだ。
「怒りました?」
「怒るわけがない」
 そう言うけど、僕にはわかる。ピッコロさんはなぜかいらいらしてる。
 でもこういう時に原因を聞いてもしょうがないのはわかっていた。だから、僕は別の話をすることにした。
「ピッコロさん。さっき僕、クラスメートの子に会ったんですよ」
「知ってる」
「見てました?」
「ああ」
 ピッコロさんはそっぽを向いていた。
 どうしたんだろう?
「その子、あのミスターサタンの娘さんなんです。ほら、僕が舞空術を教えた」
 ピッコロさんは答えない。
 普段なら相槌を打ってくれるはず、それなのにピッコロさんは視線を合わせようともしなかった。
「……ピッコロさん。もしかして、僕……何かしましたか?」
 急に不安になった。
 お父さんが来たことで僕が浮かれていて、何かしたんだろうかと考える。
「悟飯」
 するとふわっとバンダナが巻かれた頭の上に手が置かれた。
「……お前のせいじゃない。俺の問題だ。さあ、行くぞ。ベジータ達も着替えが終わった頃だろう」
「はい!」
 壁から体を起こし、歩き出したピッコロさんの後を僕は追う。
 白いマントに覆われる背中、僕はそれを見ると何時も安心してしまう。だから甘えてしまうのだけど。
 ふとピッコロさんが立ち止まる。 
 僕は馬鹿みたいに、その背中にぶつかった。
「どうしたんですか?」
 振り返った師匠は何か言いたげだった。
「なんでもない。孫にお前の成長した姿を見せてやれ」
「はい!」
 僕が笑ってそう返事すると、ピッコロさんはまた歩き出した。
 白い背中を追い掛けるのではなく、僕はその隣に並ぶ。一瞬僕を見るピッコロさん。
 だけど、また前を見て歩き出した。
 師匠の機嫌が直ったようで僕はほっとする。
 こうして隣に並べることが嬉しくて、僕はピッコロさんがなぜ不機嫌だったのか、考えることもしなかった。


posted by ありま at 15:47| Comment(0) | 魔師弟セル編直後ーブウ編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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