2014年03月03日

魔師弟話『浄化』

「悟飯。ちょっとピッコロさんのとこ行ってけろ」
「え?」
 天下一武道会まで残り1週間と迫ったある正午、食事を取っている悟飯にチチがそう話しかけた。
 ピッコロのところへはいつも自分の意志で行っている。こうしてチチに頼まれるのは初めてで悟飯は何かあったのかと、箸を止め、母を見る。
「心配するさねえ。ブルマさんに頼まれんだべ。オラ達は、ブルマさんの大きなジェットフライヤーに乗せてもらって天下一武道会にいくさ。それで、今朝ブルマさんから電話が掛かってきて、ピッコロさんは?って聞くんだべ。ピッコロさんのいる神殿ってとこは電話がないべ。だから、悟飯。行って、ちょっとピッコロさんに聞いてくんだ」 
 チチの思わぬ頼み、いつもの悟飯なら喜んでというはずだった。
 しかし、彼は困った顔を見せる。
 ピッコロから定期的に連絡はきている。が、その態度が他人行儀に思えるほどよそよそしかった。話す内容はありきたりなこと、悟飯が何か話すと相槌を打つだけで、話が途切れることが多かった。
 元より話す人ではなかったが、もっと酷くなったようだった。

(嫌われたんだ。あんまりに連絡してくださいってうるさいし。好きですって子供みたいに言っちゃったし)

 悟飯は母と弟の前だということを忘れ、溜息をつく。

「兄ちゃんが行かないなら、僕がいこっか?」
 兄思いの弟は、浮かない顔の悟飯に提案する。しかし、兄は驚いた顔を見せ、両手を振る。
「悟天!お兄ちゃんが行くから大丈夫!」
 舞空術をビーデルと同様完全にマスターしている悟天。しかも元からの力がビーデルとは雲泥の差なので、そのスピード、持久力は並ではない。
 神殿に行くのは自分ひとりで、できれば誰にも邪魔されたくない。悟飯は自分で子供っぽいと気がついていたが、どうしてもこれは譲れなかった。
「お母さん。僕、今から行って来ます」
 うかうかしていたら悟天に先を越されてしまう。悟飯はそう危惧して、昼食もそこそこに立ち上がる。
「お兄ちゃん、僕も連れて行って」
「駄目だ」
 一緒に立ち上がった弟を制して、兄はきっぱり断る。
「兄ちゃんだけ、ずるい!」
「ずるくないの」
 深く聞かれると自分の我侭で連れて行かないことがばれてしまう。悟飯は逃げるようにキッチンを後にした。
「ああ、兄ちゃん!」
 背中に弟の非難する声を聞いたが、彼は振り返らなかった。
 家を出ると、グレートサイヤマンになる。そして一気に西のほうへ飛んだ。


 §

「キャーッ!!」
 街の上空を飛んでいると女性の悲鳴が聞こえた。正義の味方グレートサイヤマン、ピッコロのところにいく途中だが、悲鳴の聞こえた場所へ直行した。

「その人を放しなさい!私は正義を愛するグレートサイヤマンだ!」
 ばしっとポーズを決めて、赤マントを翻した正義のヒーローは悪党どもに名乗りを上げる。
「ぐ、グレートサイヤマンっつ!?」
 映画になるくらいにグレートサイヤマンの知名度はあがっていた。目の前の男がその正義の味方だと知り、男達は驚く。しかし、命知らずの1名が禁句を呟いた。
「まじ、これが本物?うわ、だせー」
 ぴくっと悟飯の眉が動く。
「うわっつ!」
 その瞬間、男の体は宙を舞っていた。そして壁にぶつかり、気を失う。他の三人からしたら何が起きたかわからず、男達は完全に焦っていた。
「ち、近寄るな!この女がどうなってもいいのか?」
 動揺した男達に銃口を向けられたのは見覚えのある女性。茶色の髪に大きな夢見がちの瞳、そして豊満な胸。それはクラスメートで、悟飯が初めてデートした相手エンジェラだった。
(なんでエンジェラさんが?!)
 学校のあるサタンシティーから離れている場所にある街。その町にクラスメートがいることに悟飯は驚く。
「よっし。動くなよ」
 彼が動かないことをいいことに男どもはエンジェラを連れ逃走を図る。
 しかし悟飯が許す筈もなく、目にとまらない猛スピードで飛び掛った。銃を使う間もなく、男達は吹っ飛ばされる。
「大丈夫ですか?」
 声を低音にして、彼は声で正体がばれないように心掛ける。白いターバン、黒のサングラスをつけているが用心に越したことはなかった。
 唖然として座りこんでいたエンジェラは悟飯に手を借りて立ち上がる。握った手を彼女が離さそうとしないのがわかり、彼は嫌な予感を覚えた。
「グレートサイヤマン様。私とデートしてください」
 予感は的中。エンジェラはその目をウルウルさせて悟飯を見つめる。
「えっと、あの……」
「嫌なんですか?」
 するとちょっと怒ったような顔つきになり、彼はますます困った。
『悟飯!』
 そんな彼の脳裏に響く師匠の緊迫した声。風を感じ、悟飯は咄嗟にエンジェラを突き飛ばす。
 衝撃音がして目の前が弾けた。痛みが走り、軽い脳震盪を起こす。サングラスに弾丸があたり、破壊されていた。
「っつ!」
 悟飯は目に激しい痛みを覚えて両手で目を覆う。男は再度銃を構えたが、ふいに現れたピッコロによって昏倒させられた。
「痛いー」
 突き飛ばされたエンジェラが体を起こし、立ちあがる。するとぱさっと白い布が彼女に覆い被さった。
「え、何?私、見れない。困っちゃう」
「ピッコロさん!?」
 エンジェラの悲鳴のような声、目が見えずに状況はわからなかった悟飯だが、すぐ傍に大好きな人の気を感じ安堵する。
「行くぞ」
 白い布の中でもがいている彼女を尻目に、ピッコロは弟子を抱えると上空に飛び上がった。
「ピッコロさん、どうして?!」
「たまたま通りかかったんだ。目を閉じてろ。神殿に戻ってデンデに治療させる」
 ピッコロは悟飯を抱えたまま、そう言う。腰にまわされた彼の手から優しさを感じて、悟飯は心の底から安心する。
 嫌われているのではないかと不安で、神殿に向かっていた。こうして師匠に触れ合い、その優しさに触れることで、悟飯は自分の勘違いに気がつく。
(よかった……)
 悟飯は数日抱えていた不安から解放され、ピッコロの腕の中でその心地よさに浸っていた。


 §

「悟飯さん」
 神殿に現れたピッコロに抱えられている友人の姿を見て、デンデは顔を歪める。顔の目の部分が腫れており、小さな神様は慌てて駆け寄った。
「デンデ。ごめん」
 ピッコロの腕の中で謝る悟飯にデンデは首を横に振る。
「悟飯さん。大丈夫ですから。僕が直ぐ治します」
「ありがとう」
 幼いままの友人に青年はお礼を伝える。デンデはすぐに悟飯の傷ついた部分に手を当て、癒しの力を使い始めた。
「もう大丈夫です」
 数秒後、友人にそう言われ、悟飯は目を開ける。
「悟飯、見えるか?」
 目を開けて最初に目に入ったのは、心配げなピッコロの顔だった。次に見えたのはこれまた不安そうな顔をしてるデンデ。
「はい。ありがとうございます」
 悟飯が笑顔でそう言うと二人の表情は一気に緩む。体を起こすとミスターポポもいつの間にか傍にいることに気がついた。
「悟飯さん、よかっ……」
「馬鹿たれ!あんなに油断する馬鹿がどこにいる!」
 ほっとしてデンデが声を掛けようとすると、ピッコロの怒声が先に発せられた。
「サイヤ人とはいえ、頭に弾丸に当たると死ぬぞ。わかってるのか?」
「……すみません」
 至近距離から怒鳴られ、悟飯はうなだれ、視線を白いタイルに落とす。
 通常なら、弾丸などに当たるヘマをすることはなかった。が、先ほどはエンジェラに言いよられ、動揺しているところを突かれた。
「まったく」
 ピッコロは弟子から離れ立ちあがる。
「……俺が声を掛けなければ死んでいたぞ」
 全くその通りで、悟飯は顔を上げられなかった。
「本当、手のかかる奴だな。大きくなったと思ったが、まだまだだ」
 溜息交じりに吐かれる台詞。悟飯は羞恥心でいっぱいだった。子供のころ、ピンチとあればピッコロに庇ってもらった。
 あの時とは違う。庇護される対象ではないと自負していたが、こうして守られてしまうと自分の不甲斐なさに情けなくなった。
「な、何かあれば僕が治しますから。大丈夫ですよ」
デンデは何故か雰囲気が悪い師弟の中を取り持つようのそう言う。
「そうだ。悟飯さん、お茶にしましょう。ね?」
 落ち込んだ悟飯の腕を無理やり掴み、優しい神様は彼を建物の奥へと半ば強引に案内した。
「ピッコロ。行かない。悟飯悲しむ」
取り残されたピッコロにミスターポポが声をかけた。が、彼は腕を組んで突っ立ったままで微動すらしなかった。
お茶菓子を用意するのはミスターポポの役目だ。神殿の調理師は動かないピッコロに背を向けると神様の後を追った。


 §

「悟飯さん、元気出してください」
 目の前に広がるミスターポポの自慢の菓子。それに手を付けようともせず、溜息をはく友人にデンデは笑いかける。
「ピッコロさんは悟飯さんを凄く心配してたんです。だからあんなにきつく叱ったんですよ」
 一所懸命そう説明する神様の向かいで、悟飯は無言だった。
 脳裏に浮かぶのは苛立った顔の師匠、溜息をつき、落胆していたピッコロの表情。師匠に触れ合い、不安は解消されたはずだった。しかし叱られ、彼はピッコロに突き放されたような気持ちになっていた。
「悟飯さん……」
 彼が勘違いしているのはわかった。しかし、今の彼にデンデが何を言っても無駄であることは明白で、小さな神様は友人を見守ることしかできなかった。


 §

 ピッコロは誰もいなくなった神殿の外で、座禅を組み瞑想を試みる。しかし頭にちらつくのは傷ついた弟子の顔だった。
叱り過ぎたとわかっていた。
 が、彼は自分の憤りを悟飯にぶつけてしまった。
 心に生まれた黒い感情、デンデに『嫉妬』だと指摘されたが、ピッコロは認めなかった。『嫉妬』などそんな感情が自分に芽生えるなど信じられなかった。
 連絡するように言われているので、二日に一度は語りかけた。あの娘のこと、彼自身のこと、家族のこと、彼は楽しそうに話してくれた。
 が、ピッコロは自分がうまく返せた自信がなかった。特にあの娘の事を聞くと心が騒いだ。

 そんな状態が数日続いたある日、ピッコロは嫌な予感を感じた。
 予感の先は愛弟子で、すぐさま遠見の術で彼を確認した。
 神殿に向かってる悟飯が見えて安堵した。が、嫌な予感は収まる気配を見せず、ピッコロは神殿を飛び出し、彼の気を探った。そして悟飯に銃口を向ける男を見た。上空から必死に呼びかけ、男をつぶす。弾丸がサングラスを破壊しただけで済んだのは奇跡に思えた。エンジェラを無視して弟子だけ逃げることもできたが、彼はとっさに彼女を突き飛ばした。それで傷を負うことになってしまった。
 あの時、弾丸が彼に向って飛ぶのを見たとき、ピッコロは悟飯を失うかもしれないと思った。喪失感と絶望感が襲い、血の気が引いた。そして、ただ彼が無事であることを祈った。
 だから彼が軽傷だとわかって、安堵した。
 が、デンデに怪我を治してもらっている彼を見ていると今後は怒りが込み上げてきた。
 悟飯はもう子供ではない。
 ピッコロの庇護を必要としないはずだった。
 彼は一人の男として自立して生きていく。ピッコロはそう思っていた。
(なのに、あの様はなんだ)
 まだ子供のように彼を頼り、安心しきって体を預けていた悟飯。子供の時と変わらない。あまりに無防備だった。
 が、その無防備さに、ピッコロは昔に戻ったようで懐かしさと、喜びを見出した自分がいることに気がついた。
 そんな自分が信じられなかった。
 黒い感情、そして、悟飯に対するこのような気持ち。
 だから、悟られたくなくて何時もよりきつく当たってしまった。
(師匠として完全に失格だな)
 ピッコロは大きな息を吐く。

 
 §

「ピッコロさん」
 ふいに、自分を呼ぶ心地よい声がした
「悟飯……」
 不覚にも弟子がすぐ近くまで来ていた。そのことに気がつかない自分の間抜けさに、ピッコロは自嘲した。弟子のことは言えない。先ほど誰かに襲われていたら、簡単に倒れさていたに違いない。
 振り返り悟飯を見つめる。傷が完全回復した彼の顔、しかし表情は暗い。ピッコロを見上げる瞳には何時もの覇気がなかった。
「ピッコロさん、本当にごめんなさい。僕、すっかり油断してて。今度からそんなことがないように励みます」
 ピッコロを変えていった純真さや素直さを、悟飯は未だに持ち合わせているようだった。弟子は素直に頭を下げる。その様子は彼に昔のことを思い出させ心を暖める。
「だから、お願いします。僕を見捨てないでください。僕はピッコロさんの側にずっといたいんです」
 しかし次に悟飯から発せられた言葉はピッコロの予想のもので、普段はしないが、すぐに弟子の心を探る。
 悟飯の心にあるのは、孤独感だった。
 7年前、悟飯は悟空に言われ、セルに一人で立ち向かった。あの時、ピッコロは彼の精神がぼろぼろになっていくのを見ることしか出来なかった。
 心によみがえるのは後悔。
「悟飯」
 あの時、あの瞬間にできなかったこと。
 ピッコロは弟子を抱きしめた。
「見捨てるなど、そんなことするわけがない。俺はいつでもお前の側にいる」
「ピッコロさん」
 悟飯は顔をくしゃくしゃにすると、ピッコロの胸に顔を押し付ける。そして背中に手が回した。
 しばらくして嗚咽が聞こえ始め、ピッコロは目を細め、弟子の黒髪を撫でる。
「今日は悪かった。言い過ぎた。お前は俺の自慢の弟子だ」

 先ほどまで彼を苛立たせた感情は、悟飯の涙によって浄化されていくようだった。心に生まれた感情は何かわかっていない。でもこうして悟飯を抱いているとどうでもよいことに思えていた。


posted by ありま at 11:21| Comment(0) | 魔師弟セル編直後ーブウ編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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