2014年02月20日

飯P話『たいせつなひと1』

「に、兄ちゃん。もう行くの?」
 目を擦りながら、父そっくりの悟天がやっと目を覚ます。
 まだ眠そうな様子に悟飯は一瞬連れていくか迷う。しかし本人はすっかり一緒に行くつもりらしい。身支度を整えるために洗面所に向かう。
 もう少し遅い時間にすればよかったかと思うが、気分が高揚して早く目覚めてしまった。悟天が修行の手助けになるかは分からない。しかし誘ってしまった以上、今更悟飯一人で行くとは言えなかった。

 箪笥を開け取り出すのは濃い紫色の道着。再び修行する日が来るかもしれないからと、尊敬する師匠に作ってもらったものだった。セルと戦った時と同じ色、形のそれを身につけると、悟飯は体の隅々まで力が漲る気がした。
 悟天のためには、父が着ていたものと同じ色の道着と濃い藍色の長袖のTシャツを箪笥から取り出す。
 
 歯磨き、洗顔を終えた悟天は、一人で着替えをしようとまずは長袖のシャツと格闘していた。時間は多少かかるが一人で着替えることが出来るようになっており、悟飯は弟の成長に目を細める。山吹色の道着を着て、仕上げに藍色の帯を締める。そして準備万端の二人は部屋を出た。

 しんと静まり返る家の中。
 
「お母さんを起こさないようにするんだぞ」
 人差し指を唇に当て、弟と一緒にそろりそろりと家を抜け出る。

「兄ちゃん、まだ真っ暗だね」
 東の空がほんのり明るいだけで、辺りはまだ薄暗い。しかし野鳥は既に目を覚まし、小鳥達に囀りながら餌を与えている。
 グレートサイヤマンになるまでは、筋斗雲を通学に使っており、この時間に目を覚ますことが多かった。
 早朝の空気は清涼感に満ちていて、全てを浄化するような冷たさを持っている。悟飯は大きく深呼吸した後、悟天と一緒に準備運動を始めた。
「とりあえず超サイヤ人になっておくかな」
 一通り体を解し、悟飯は拳を握り、気を高める。一瞬で髪が逆立ち、金色に染まる。そして瞳は青色に変わっていた。
 7年前、父に教えられ、苦労して超サイヤ人になることを覚えた。そして、それを通常の状態に保つまでに体を鍛えた。しかし、平和の日々、超サイヤ人になる必要はなく、学校に通い始めるまでほとんど変身していなかった。
「よっし、始めるか」
「おう!」
 兄に言われ、弟は威勢よく返事をして左拳をあげる。

『悟飯!』
 が、 弟を連れ走り出そうとした瞬間、怒鳴り声に近い師匠の声が脳内に響く。
「ピッコロさん!」
 声に含まれた憤怒に気が付きながらも、弟子は嬉しくなって師匠がいるはずの天空を見上げる。傍にいた悟天は不思議そうな顔で兄を見つめていた。
『急に超サイヤ人になる馬鹿がどこにいる。7年も鍛錬をしていないんだ。まずは通常の状態で体を慣らすことから始めろ!』
 ピッコロは、誰よりも弟子の状態を理解していた。悟飯もそれを知っているからこそしゅんと肩を落とすと、超サイヤ人から元の状態に戻る。
「ピッコロさん。僕、久々の修行で嬉しくなって考えませんでした。そうですよね」
『そうだ。徐々に体を慣らすんだ。明日くらいには超サイヤ人で訓練しても大丈夫なはずだ』
「わかりました」
 悟飯は師匠の言葉にうなだれたまま、返事をする。あれから7年も立ったのに、未熟な自分が恥ずかしかった。
『何かわからないことがあったら聞きに来い。やり方は教えてやることはできる』
 しかし、ピッコロのこの言葉で悟飯は元気を取り戻す。怒ってはいない。また教えてもらえると、心が躍る。
「本当ですか?」
『ああ』
 師匠は弟子の声に籠った喜びの声に気が付いていないのか、いつも通り淡々と答えた。
「じゃ、今日行きます。学校に休学届を出しに行くのでその帰りに。待ってください!」
『……わかった』
 興奮する弟子に反して、師匠は静かに答える。

「兄ちゃん?」
 悟天が、悟飯のズボンの端を引っ張って見上げた。眉を顰め、困惑した表情をしていた。兄が突然空に向かって話し始めたので、大丈夫なのかと弟なりに心配しているようだった。
 通常悟飯はピッコロに神殿から話しかけられた場合、弟がいないところで会話していた。それは、弟に「僕もしたい」と邪魔されるのがいやだったからだ。今日はその隙もなく、会話をしてしまい、悟天に見られてしまった。
 悟飯は弟に聞こえないほどの小さな声でピッコロに「じゃ、後から」と言い、悟天に向き直る。
「さ、行くぞ」
 弟に質問する間を与えず、悟飯は走り出した。
「兄ちゃん、待ってよ!」
 どんどん先を行く兄を必死に追いかける悟天は、余計なことを考えることなどができることはずもなく、兄への質問などをすっかり忘れていた。

 § § §

 1時間ほど外を走り回り、悟天が疲れ切ったところで、悟飯は自宅に戻った。家ではチチが朝食を準備しており、いただきますと食べ始める。
「お母さん。今日、僕、学校に休学届を出してからピッコロさんの所へ行ってきます」
 胃袋がかなり満杯になり、心が落ち着いた悟飯は箸をとめ、母に今日のことを伝える。母に言わないと心配するので、直に伝えることにしたのだ。
「ピッコロさんのところべか?」
「はい。修行のやり方をちょっと教わりに。長いこと修行してなかったから感覚がつかめなくて」
「……わかったべ。遅くなるんじゃねーぞ」
 チチがピッコロのところに通う悟飯を止めたことはなかった。悟空が亡くなり、彼が悟飯の父親代わりといっても過言はなかったからだ。
 ピッコロは、ラディッツを殺すため、彼を押さえた悟空ごと魔線光で命を奪った。その上、当時4歳だった悟飯を修行という名目で奪い去った。その時チチはピッコロを憎悪したが、その後悟飯を庇って死んだことなどを知り、憎悪の気持ちは消えていた。そして人造人間に対抗するためにパオズ山で一緒に修行することになり、3年間家族の一員となったピッコロへ好意すら芽生えるようになった。
 だから今ではむしろ、悟空よりも悟飯のことを理解しているピッコロに頼っている部分もあるくらいだ。
「ずるい。兄ちゃん!僕もピッコロさんの所に行きたい!」
 母と兄の話を聞いていた悟天が急に口を挟む。
 ピッコロとは何度も面識があった。母が不在のときなどはピッコロが自宅に訪れ兄を助ける場面に何度か遭遇している。
 悟天は大人のピッコロに優しくされる兄が、うらやましくしょうがなかった。
「だめだ。僕は学校にも行かないといけないんだから」
 しかし悟飯は珍しくはっきりそう言って、悟天の願いを断る。
「ずるい、ずるい。兄ちゃんだけずるいよ!」
 弟は頬をぷうと膨らませ、抗議した。
「ずるいんじゃない。また今度な」
 逃げるように悟天の頭をぽんぽんと撫で、悟飯は立ちあがる。
「じゃ、お母さん。行ってきます」
「ああ、気をつけるんだぞ」
 悟飯の、ピッコロを独り占めしたいという、子供っぽい気持ちを知っているチチは、苦笑しながら見送る。
「お母さん、兄ちゃんだけずるいよぉ」
 残された悟天は半泣き状態で、手の甲で目を擦っている。チチは悟天を抱きしめ、ハンカチで涙をぬぐう。
「しょうがないっべ。悟天泣くんじゃねーべ。そうだ。片付けすんだら、おらが遊んでやる」
 悟飯には厳しく勉強、勉強と言っていたチチだが、悟空そっくりの悟天には何かと甘くなっていた。勉強を強いることなく、育てており、死んだ夫のように強い格闘家になってほしいと思っていた。


posted by ありま at 17:46| Comment(0) | 魔師弟セル編直後ーブウ編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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