2014年02月13日

神様の胸騒ぎ

「ピッコロさん、デンデ」
 ずっと変わらない無邪気な笑顔を浮かべて、今日も悟飯さんはやって来た。
 セルが消滅し、平和になった世の中。
 父親を亡くした悟飯さんは、ピッコロさんを慕って毎週神殿にやってくる。

 悟飯さんのお父さん――悟空さんはセルの自爆を止めるために死んでしまった。悟飯さんはそのことを悔やんでいて、時折、あの時のことを思い出しているようだった。
 ピッコロさんはそんな時、じっと彼の言葉を聞いて優しく受け止める。
僕はネイルさんと同化する前のピッコロさんはよくは知らないけど、前はすごく怖かった人らしい。怖がらないのは悟飯さんだけだと聞いていた。
 ナメック星に悟飯さんが来たのも、ベジータさんが地球に襲来した時に、悟飯さんをかばって命を落としたピッコロさんを生き返らせるためだった。
 
 そんな二人の絆は、僕が想像できないくらい堅い。

 それなのに、悟飯さんは時折、僕が羨ましいと目を細める。
「ピッコロさんと一緒に神殿で暮らしますか」とたずねると、「お母さんと悟天を置いていくことなんてできない」と慌てて答えられた。

 悟天さん、そう悟飯さんに弟さんができた。悟飯さんはすごく喜んでて、僕もとても嬉しかった。
 でもその半面、悟飯さんがチチさんのお手伝いをすることが多くなって、神殿に来る機会がめっきり減ってしまった。毎週悟飯さんに会えるのが楽しみだった僕は、時折神殿の縁に立って、悟飯さんの様子を見ていた。そうしているのは僕だけじゃなかったみたいで、ある時、ピッコロさんがものすごい勢いで飛んでいくのが見えた。
 悟飯さんのところかなと様子を探ると、やっぱりそうで、到着したピッコロさんが悟飯さんと一緒にいるのが見えた。どうやらチチさんが不在で、悟飯さんが泣き出した悟天さんに手を焼いていたらしかった。
 
 本当に二人の結束は堅いと思う。

 僕はそんな二人の間に流れる、空気が好きだ。温かくて、とても心地がいい。下界を見ていると、目を覆いたくなるような場面に遭遇することがある。
 でも、二人の空気に触れるとそれが浄化されるような気持ちになる。

 だから、神様という大役も出来ている気がしていた。
 
 そうして僕が神様になって、1年、2年と時がどんどん過ぎていく。

 僕と違って、成長が早い悟飯さんはあっという間に大きくなった。それでも、二人の関係は変わらず、僕は身長の差がかなり縮まった二人の側で、その心地よい波動を感じながら過ごした。

 そんな日々がずっと続くと思っていたある日、悟飯さんが少し興奮した様子で神殿に現れた。
 彼は「来月からオレンジスターハイスクールに通うことになった」と僕達に語り、「ずっと通信教育だったけど、学校に通ったほうがいいって母さんが進めてくれて]と嬉しそうに笑った。

 僕は妙な胸騒ぎを覚えた。心臓は早鐘を打ち始めて、行かない方がいい、そう言いたくなるくらいだった。
 ピッコロさんも同様な思いを抱いたらしい。
 でもすぐに『悟飯には話すな』と心の中に話しかけてきた。

 悟飯さんは小さい時から自宅で一人で勉強していた。しかも、10歳までずっと大人と一緒に戦ってきた。だから、彼には同世代の地球人の友達がいないはずだった。

 学校には同世代の地球人がいっぱいいる。

 彼の期待を裏切るのは、楽しみを奪うことはできなかった。

「しっかり勉強しろよ」
 ピッコロさんはそう言って笑う。笑うといっても口の端を少し持ち上げるだけだ。それでも彼には優しさが伝わっているらしい。悟飯さんは少し顔を赤らめて「はい」と頷いた。

 ピッコロさんが言わないなら、僕が言える筈がない。

「よかったですね。お友達がたくさんできるといいですね」
 僕は気持ちを押しこみ笑顔を作って、違う言葉を口にする。

 すると、悟飯さんは心底嬉しそうな笑顔を浮かべた。

 彼の笑顔を見ながら、僕は、胸騒ぎが気のせいであることを祈った。
 神の身でありながら、祈るなんて可笑しなことだけど、僕は祈らずにはいられなかった。


posted by ありま at 11:00| 魔師弟セル編直後ーブウ編 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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