2011年04月26日

ムカシノオトコ10(完)

(会いたい……)
 トランクスにミルクをあげながら、ブルマは窓の外から球体の宇宙船を見下ろしていた。
(精神と時の部屋って確か2日しか入れなかったはずよね。だったらもう二人とも外に出てるはずなのに……。
戻ってこないのかしら)
 ベジータに優しくされたり、愛を囁かれることを期待してなかった。
 しかし、その腕に抱かれ、そのぬくもりを感じたかった。
「戦闘服、ヤムチャに持っていってもらったのは失敗だったわね」
 16号の修理は完璧で、庭でセルとの戦いに向けて一人で稽古している姿が見えた。
(こんなに早く修理が終わるとは思わなかったわ。分かっていれば自分で届けたのに……。ベジータに会いたい)
 しかし理由なしに神殿に行けばベジータが嫌な顔をするのがわかっていた。
(ああ、会いにきてくれないかしら?)
 ブルマは窓を見上げ、青い空に浮かぶ神殿にいるベジータを想った。
 

 セルゲーム開催が明日に迫った。
 明日に備え、余計なトレーニングは控え、早めに休むことにした。トランクスはここ数日のベジータの扱きに疲れてか、静かな寝息を立てて熟睡していた。ベジータはその横で眠れず、目を覚ました。
 見上げる空は真っ暗で美しい星々が見えた。
 その夜空は宇宙に行く前に、ブルマと一緒に見た空を思い出させた。自分を真摯に見つめる青い瞳、この地球と同じ澄み切った青色だった。
 自分を愛する地球人。
 自分の子供を生んだ地球の女。
 そして初めて安堵という気持ちを自分に与えた女。
 ブルマはやはり特別だった。
 そして失いたくない女だった。

(あのクズ、殺してやる)

 ベジータはそう思い立つと神殿から飛び立った。
 神殿の外で静かに座禅を組んで瞑想に耽っていたピッコロは、ベジータが神殿を離れるのを感じ、目を開いた。
 男女の性がないナメック星人にとってブルマやベジータの持つ感情がわからなかったが、その暖かな感情によってベジータに変化が起きていることにピッコロは気がついていた。そして魔族であったときのピッコロも、それに似た感情で変わったことを思い出した。

 
 そよそよと風が顔を当たるのがわかった。
 ブルマは目を覚まし、ベッドから体を起した。そして窓が開け放たれ、人影があることに気がついた。邸宅内の照明に照らされ、ブルマはその人影が誰だかわかった。
「ベジータ……」
 ブルマは夢の中にいるのだと思った。
 神殿にいるはずのベジータがここにいるはずがなかった。
 ベジータはゆっくりとベッドのブルマのもとへ歩み寄った。
「あのクズはいないのか」
 そう聞いたベジータの声で、ブルマはこれが夢ではないと悟った。そしてベジータから発せられた質問に驚いた。
(あのクズって……ヤムチャのこと?気にしてくれてるの?)
「あのクズは」
 ぼうっとただ自分を見つめるブルマに苛立って、ベジータが再び質問を繰り返そうとすると、その胸にブルマが飛び込んできた。
「ベジータ……愛してるわ」
 ブルマの温もりが自分を包むのが分かった。青い瞳がじっと自分を見つめている。その唇は濡れ、ベジータは衝動的に唇を重ねた。深く重ねられた唇にブルマは答える。
 ベジータはブルマを抱きかかえるとベッドにその体を下ろした。そしてブルマをその黒い瞳で見つめ、再度唇を重ねた。

「ねぇ。あのクズってヤムチャのこと?」
 気だるい体をブランケットで包み、ブルマは体を起こした。
 ベジータは何も答えず、シャワー上がりの体をタオルで拭いている。ブルマはベジータの鍛え抜かれた体を見つめた後、愛しい男の顔に視線を向けた。ベジータはいつものように眉をひそめ、水滴をふき取った体に青い色のアンダーフェアを身につけ始めていた。
「ねぇ。すこしは妬いてくれたの?」
「……うるさい。すこし黙ってろ」
「ねぇ。ヤムチャとキスしたって言ったら怒る?」
「!?」
 ベジータはブルマの言葉に顔を強張らせ、プロテクターを着ける手を止めた。
「嘘よ。戦闘服の配達を頼んだだけ。何もないわ。だって私の愛する男はあなただけだもの」
 ブルマの言葉にベジータは背を向け、プロテクターを着け終わり、手袋をはめはじめた。
「ベジータ!」
 ブルマはベッドから立ち上がるとベジータの背中に抱きついた。
 はらりと身にまとったブランケットが落ちる。
「俺を苛立たせるな」
 ベジータはブルマの腕を掴むと、乱暴に口づけた。
「ごめん。悪い冗談よ。私はあなたしか見てないわ」
「知ってる」
 口づけの合間にそう言ったブルマにベジータは短くそう答えた。こころなしか、顔が少し赤らんでいる気がした。
 ブルマはそんなベジータの様子に微笑むと、今度は自分から唇を重ねた。
 自分を気にしている。
 妬いてくれてるのが嬉しかった。

「そろそろ時間だ」
 結局、再度シャワーを浴びることになり、戦闘服に着替えたベジータは窓から外を見上げた。太陽が完全に上り、眩しい光が部屋に入ってきていた。
「死なないでね。待ってるから」
 ブルマはベジータの背中を見つめながらそう言った。
「当たり前だ」
 自分を心配気に見つめるブルマにベジータは鼻を鳴らしてそう答えた。そして優しくその髪を撫でる。
「俺を誰だと思ってるんだ」

『心配するな』
 ブルマにはいつもの偉そうなベジータの言葉がそう聞こえた。

「じゃあな」
 ベジータはブルマに背を向けると一気に窓から上空に飛び上がった。風が部屋に吹き込み、ブルマは目を開けていられず、目を閉じた。
 そして再び目を開けるとすでに上空にベジータの姿はなかった。

 ブルマは自分を包むように両腕で自分を抱きしめた。
 体にはまだベジータの温もりが残っていた。

(信じてるから。また戻ってきて、私を抱いて)

 ブルマはベジータが消えた空に向かってそうつぶやいた。

 上空の空は青く高くどこまでも広がっていた。



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posted by ありま at 10:55| DB 2次小説 セルゲーム前 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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