2014年07月28日

変わりゆくもの

 嫌な音がした。
 手の中に、小さな部品があった。
 締められるはずのファスナーは、ぱくっと口を開いたままでこちらを見ている。

「ちょっと、ベジータ!また壊したの!」
 事態に気が付いたブルマは振り返り、ベジータの手の中のスライダーを見つけ、目を丸くする。
「うるさい。こんなこと、俺にさせるからだろう!」
 ブルマに頼まれ、何度もこのファスナーというものを締めてきた。力加減はわかっているはずだった。
 自分に落ち度がある、しかしそれを認めることは負けるようで、ベジータは怒鳴り返した。
「あんた、何度壊したら気が済むのよ。力加減もできないの?」
 怒鳴り返され、ブルマも歯止めがきかなかった。いつも通り言いかえしてしまう。
「加減はしてる。だいたい、俺じゃなくて、トランクスに頼めばいいだろう!」
「トランクスはまだ小さいでしょ?私の背中に手が届かないのよ!」
「お前がしゃがめば済むことだろうが」
「しゃがんだら、ドレスに皺がよるじゃないの!まったく男って奴はわかんないのね!」
「ああ、本当にうるさい女だな。ごたごた言うな!ドレスが壊れたんだ。もう行く必要もないだろう!」
 最初から行きたくなかったんだ、そう言われ、ブルマは言葉を詰まらせる。
 
 今晩、西の都の有名人を集めて、大きなパーティーが開催される予定だった。世界有数の企業であるカプセルコーポレーションの社長代理として、ブルマは出席することになっていた。
 こういう場所を嫌うベジータは通常参加することはない。だが、今晩に限って無理やりブルマに連れて行かれようとしていた。
 
「だめ。今晩は絶対に参加するの!ベジータ。5分だけ頂戴。すぐに着替えてくるわ」

 いつもより少し弱った調子でそう言い、ブルマは部屋に駆け戻った。

 ブルマがベジータを連れていきたい理由は二つ。一つは、そろそろ夫を社交の場で披露したいということ。もう一つは最近社交会デビューした若手女社長への牽制だった。美人でスタイル抜群のブルマは社交界では花形的存在だった。が、その女社長が現れてから、話題をさらわれることが多く、ブルマは悔しい思いをしていたのだ。
 しかし、ブルマのエゴもあり、ベジータにはその理由は説明していない。ただ、夫として正式に社交界に出てほしいと頼まれ、今回は特別に参加することに同意したのだ。
 カプセルコーポレーションに住んで、10年以上が経過。地球の風習にもかなり馴染み、ブルマの意図することを理解するようになっていた。
 また孫悟空がセルの自爆を止めるために、この世から消え、その虚無感を埋めてくれた家族と言う存在に、ベジータは戦うこと以外に生きる意味を見出していた。

「あれ、お父さん。なんか今日カッコイイね!」
 ブルマを部屋の外で待っていると、7歳になったトランクスが顔を見せた。
「なんかモデルさんみたい」
 普段はラフな格好か、戦闘服しか着ない父親の正装姿は、子供心にも珍しいかった。通常見られない洗練さも表れていて、トランクスは改めて父親がハンサム部類に入ることを自覚した。
 息子に賞賛されても、素直に喜ばないのが、ベジータだった。
 ふんと鼻で笑っただけで、済ませる。
 そんな父親には慣れっこで、トランクスは気にする様子もなく、がさこそでゲーム機を部屋の隅の箱から取り出した。
「今日は俺達の帰りは遅い。9時には寝るんだぞ。睡眠時間が少ないと成長が遅れる」
「はーい」
 素直に返事した後、トランクスはゲームをし始めた。

「ごめん。お待たせ」
 それから5分ほどして、ブルマは部屋から出てきた。身に着けていたのは先ほどと同じくらい露出度の高い真紅のドレス。タートルネックで、大きな胸が強調されており、背中は腰までぱっくりと開いていた。スカートはタイトなもので足首まであったが、太ももあたりから大きなスリットが入っていた。
「……下品だな」
「久々に聞いたわね。そのセリフ。褒め言葉と思っておくわ」
 ベジータと口論してへそを曲げられては困ると、ブルマにしては珍しく聞き流した。
「トランクス。ゲームできるのは1時間だけだからね。9時になったら寝るのよ」
 部屋に息子が戻ってきているのを確認し、ブルマは母親らしく諭す。
「わかってるよ。さっきパパにも言われたし」
「だったらいいけど。じゃ、お留守番しっかりね」
 ブルマの言葉にハーイと返事をして、トランクスは再びビデオゲームに視線を戻した。
「ベジータ、今日は絶対ジェットに乗ってもらうから。飛んでなんか行ったら、折角のスーツが台無しよ」
 その言葉に、飛んだほうが楽に決まっていると、ベジータは舌打ちをした。が、舌打ちなど慣れっこのブルマは無理やりベジータの腕を掴むと歩き出した。


 ベジータとブルマが会場に入ると、ほおと参加者から溜息を上がった。そして、あれが次期社長のお婿さんかと、ひそひそと話される。
 『お婿さん』という単語は好きではない。だが、向けられる視線は羨望ばかりで、悪くないとベジータは笑う。
 王子として教育を受け、さらにフリーザ軍で辛酸を舐めてきたベジータは、社交儀礼に詳しい。またこういう場所での振る舞い方もわかっているので、ブルマの隣で悠然と構えていた。
 10分程過ぎたところで、会場が不意にざわついた。
 そして一人の若い女性が現れる。ブルマより一回り若く見える女性はブルマと同じ真っ赤なドレスを着ていた。その豊満な胸元は申し合わせ程度に隠され、背中は全開。裾にはフリルが付けられていたが、膝上20センチくらいの丈。下着が見えそうなギリギリのラインで、小麦色の若さ溢れる足がすらりと伸び、男性の視線を釘づけにしていた。娼婦と貴婦人のぎりぎりのラインのデザインは、刺激的で、多くの男性がその女性に見惚れていた。
 しかしベジータは別格だった。ブルマ以外に女性の魅力を感じない。単にブルマ以上に下品な女が地球にはいるんだな、妙な思いを持ってその女性を見ていた。
 が、隣にいるブルマはベジータの視線に胸を焦がした。前にも増してその女性――若手女社長への対抗心が燃え上がらせていた。
「ベジータ」
 夫に腕を絡め、囁く。
「何、見てるのよ」
「何だ?何って、俺はあの下品な女を見てるだけだ。お前と同じ色のドレスだな。しかし……」
 ブルマは最後まで言わせなかった。 
「!」
 ふいに唇にあてられる感触。ベジータの方が驚き、慌てて、離れた。
「他の女を見るなんて許さないんだから」
 嫉妬。わかりやすい女だな、と苦笑した。だが、その瞳が少し濡れている気がして、息を飲む。
 本当なら、安心させるために、ここで抱きしめるのが男の務めとは知っていた。だが、ベジータにはできなかった。
「もういい。ベジータは好きなだけあの女を見るといいわ。私は知り合いに挨拶してくるから」
 ブルマは溜息交じりにそう言うと、ベジータも元から離れた。
「ちっ」
 舌打ちはブルマに対してか、それとも自分に対してか。
 ブルマが必要としないなら、この場にいてもしょうがなかった。 
 ベジータは結局スーツを着たまま、飛んで家に戻った。



 時間よりもかなり早く戻って来た父親に、トランクスは八つ当たりのように怒られ、自室に追いやられた。母親が戻ってこないことから、両親がまた喧嘩したと、子供心に理解する。こういう時は、関わらないのが一番と、聡い子供は知っており、早めの眠りについた。



「なんだ、まだ起きてたんだ」
 ブルマが戻って来たのは日付が変わった真夜中だった。
 かなり飲んだらしく、呂律が少し回っていない。
「私はもう寝るわね」
 そう言って、部屋に戻ろうとしたブルマの腕をベジータが掴む。
 むわっとお酒以外に、煙草の香りがしてベジータは顔をしかめた。そして、ブルマが煙草をやめたことを思い出し、胸が騒ぐ。
「……誰と飲んでいたんだ」
「誰??さあ、誰かしら?」
 ふふんと酔ったブルマは笑う。
「誰だ?男か?」
「もしかして嫉妬してる?ふふ。あんたも嫉妬することあるんだ」
 馬鹿にしたような言い方で、ベジータの怒りに油を注ぐ。
 行きたくなかったパーティーに参加したのに、他の女を見ていると言いがかりを付けられた。そして今度は自分勝手に他の男と飲んで帰って来た。
「俺はもう知らん。勝手にしろ」
 掴んでいた腕を話し、ベジータは背を向ける。
「ベジータ!」
 だが歩き出すことは出来なかった。ブルマがその背中に縋りつく。
「嘘よ。男となんて飲むわけないでしょ。むしゃくしゃしたから、煙草をもらって一人で吸ったの。普段を吸わないんだけど、イライラすると吸いたくなるのよ。だって、あんた、あの女ばかり見てたじゃない。私よりずっと若くて綺麗な、」
「馬鹿か、お前は」
 腰にまわされた手をベジータが握りしめる。
「あの女、お前と同じ色のドレスを着てたくせに、気品も何もあったもんじゃない。下品なだけだ。お前以上に下品な女がこの星にはいるんだなと思って見てたんだ」
「……私以上って、」
「お前は俺がこの地球で初めて会った下品で最高の女だ。わかったな」
「下品で、最高?最高って言ったわね。今。もう一回言ってよ」
「うるさい。2度は言わない」
 ベジータはブルマの手を離すと、歩き出す。
「寝るぞ。シャワーを浴びてこい。俺は煙草の匂いが嫌いなんだ」
 一緒に生活をし始めた当初、シャワーを浴びるように促すのはいつもブルマの方だった。
 孫悟空を超えるため修行していた日々、寝る間を惜しんで修行した。気持ちが折れそうな時に支えになったのはブルマだった。
「うん。待っててね。隅々まで綺麗に洗ってくるから」
 片目を閉じウィンクした後、明け透けなくそう答え、ブルマはバスルームに駆け込む。 
「やはり、あいつは下品だ」
 自分の頬が火照るのがわかり、ベジータは誰も見ていないのに部屋に逃げるように戻った。

 ナメック星で出会ってから11年が経っていた。
 あの頃の焦燥感、飢餓感は今のベジータにはない。それをたまに懐かしく思うこともある。
 戦闘民族にはありえない、平和で甘い日々。
 ベジータはその生活に心地よさを感じていた。

 (完)
 
 
 
 


posted by ありま at 00:14| Comment(0) | DB 2次 ベジブル(セル編以降) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

久々にベジブル小説更新します!

長らくDBから離れていて、DBに戻ってきたと思えばベジブルではなく魔師弟小説を書いていた私。

久々、3−4年ぶりに書きましたよー。
ベジブル新作!
この新作はPIXIVで仲良くさせた頂いているベジブル同士の明良さんのイラストから閃いたものです。
ちなみにイラストを見たい方はココをクリック。

セル編から6年後、ブウ編1年前の設定です。
別記事で更新するので、読んでみてください。
(PIXIVではすでに掲載済みです)

また拍手コメをくださったtitti626さん!ありがとうございます。嬉しいです。
『神と神』、そしてブウ編の改!
盛り上がってますよね。

ありま氷炎 拝
posted by ありま at 00:12| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2014年07月08日

「77魔師弟企画」開催しました!

こんにちは。
7月5−7日にかけて「77魔師弟企画」をブルックリンさんと悠紀さんと3人でしました。

作品は下記。

『Milky Wayのほとりで』
悟飯の死後の魔師弟の話です。二人のキズナをしっかり感じられる、とても素敵な話です。
ブルックリンさんの作品です。

『変遷〜lifelong companion』
チチにお見合いを進められる悟飯の話。悟飯がかわいい素敵な話です。
悠紀さんの作品です。

『恋人の接吻』
ピッコロへの恋愛感情を意識した既婚者悟飯22歳の話です。切ない恋愛小説仕立てになってます。
ありま氷炎作。

以上です。
バラエティに富んだ話です。
ちなみに「たった一度」「恋人」「距離感」をキーワードにしてます。

ありま氷炎 拝
posted by ありま at 11:43| Comment(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
×

この広告は180日以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。